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2025年11月
様々な土地評価について
土地の評価額は、私たちが生活する上で様々な場面で関わってきます。
不動産の売買、公共用地の買収、相続税の計算、固定資産税の支払い、など、その評価基準によって金額が大きく変わることも珍しくありません。
私自身、弁護士になる前に政府系の企業に勤務しておりましたが、当時は、この土地評価を、日常的に、膨大な量の土地について行っていた時期がありました。
また、弁護士や税理士になってからも、たくさんの種類の土地評価に接しています。
この度は、様々な土地の評価額について簡単に解説させていただきます。
1 そもそも、なぜ土地評価基準は複数存在するの?
土地の評価基準が複数あるのは、それぞれの目的が異なるからです。
例えば、実際に土地を売買する際の価格と、税金を計算するための価格は、必ずしも一致する必要はありません。
それぞれの評価基準は、特定の目的に沿って、公平性や合理性を保ちながら、定められています。
2 実勢価格(取引価格)
実勢価格とは、実際に市場で取引される土地の価格です。
不動産会社による査定価格がこれに該当し、売買の際の重要な指標となります。
また、裁判所が相続や離婚の際の財産分与などの手続きで土地の評価を行う際にも、実勢価格が基準の一つとして考慮されます。
この価格は、通常、不動産会社が、周辺の取引事例や市場動向を基に査定を行うことにより算定されます。
実勢価格による土地評価が、あらゆる土地評価の中で一番高くなると言われています。
3 固定資産税評価額
固定資産税評価額は、固定資産税や都市計画税を計算するために用いられる評価額です。
実勢価格よりも低い水準で評価されることが一般的で、おおよそ実勢価格の約7割程度と言われています。
4 路線価
路線価は、相続税や贈与税を計算する際に用いられる評価額です。
道路に面する土地の1平方メートルあたりの価格を示しており、実勢価格のおおよそ約8割程度と言われています。
路線価は、国税庁が毎年発表しています。
5 地価公示価格
地価公示価格は、国土交通省が毎年発表する土地の価格です。
全国の標準地を選定し、不動産鑑定士が鑑定評価を行い、それをもとに国都交通省が結果を公表します。
一般の土地取引の指標となるだけでなく、公共用地の取得価格の算定基準としても活用されます。
この価格が一番、実勢価格に近いものとなり、地価公示価格の1.1~1.2倍が実勢価格の目安と言われています。
6 都道府県基準地価格
都道府県基準地価格は、地価公示を補完する目的で、各都道府県が発表する土地の価格です。
地価公示と同様に、不動産鑑定士が鑑定評価を行い、それをもとに都道府県が結果を公表します。
地価公示の調査地点が少ない地域において、より詳細な土地価格の情報を提供します。
地価公示と同様に、基準値価格の1.1~1.2倍が実勢価格の目安と言われています。
7 不動産鑑定士による土地評価
不動産鑑定士は、不動産の専門家として、様々な目的で土地の評価を行います。
不動産鑑定士による土地評価は、上記の通り、地価公示、都道府県基準地価格を算出する際の鑑定評価として利用されることもありますし、公共用地の買収の際に、土地価格の正確性を担保する際に添付されることもあります。
主な評価方法として、以下の2つがあります。
・取引事例比較法
周辺の類似した取引事例を参考に、土地の価格を評価する方法です。
・収益還元法
その土地が生み出す収益に着目し、土地の価格を評価する方法です。
賃貸物件や事業用地の評価に用いられます。
8 まとめ
土地の評価基準は、それぞれ異なる目的で使用されており、実勢価格、固定資産税評価額、路線価、地価公示価格、都道府県基準地価格、不動産鑑定士による評価など様々な土地評価があります。
例えば、土地を他者に売却したり、相続などで、遺産分割を行う場合には、実勢価格を用いなければ不利益を被る可能性があります。
また、相続税の基礎控除の計算をする際に、実勢価格をもとに計算して課税になるとしても、路線価は上記の通り実勢価格よりも1~2割程度低額ですから実際には相続税がかからないということも多々あります。
よって、上記の通り、それぞれの目的に沿ってどの土地評価額を用いなければならないのか知ることがとても重要となってきます。
それぞれの評価基準の違いを理解するには、弁護士、税理士の専門家のアドバイスを受けながら、利用目的にそって間違いのないように行うことをお勧めします。
以 上
相続時精算課税って何?
1 相続時精算課税制度とは?
①簡単にいうと、どういう制度なの?
相続時精算課税制度とは、贈与税と相続税を一体化して課税する制度です。
この制度を利用すると、毎年の贈与額の累計額が2500万円までならば、贈与税は非課税(特別控除)になります。
また、令和6年の法改正により、上記の特別控除とは別に、年間110万円までの基礎控除が新設されました。
この基礎控除分は、相続時に相続財産に加算することは不要です。(生前贈与加算の対象外)。
②税率
この制度を利用した場合の贈与税額は、2500万円を超えた部分に、一律20パ-セントの贈与税が課されます。
③「相続時精算課税」の意味は?
「相続時精算」の名の通り、暦年の110万円を超えた累積贈与額は、相続時には、相続財産に加算され、相続税の課税対象となってきます。
④適用される対象者は?
この制度を利用できる対象者は、原則として60歳以上の父母や祖父母(贈与者)から、18歳以上の子や孫(受贈者)に対して財産を贈与する場合に適用することが可能です。
⑤具体例で教えて?
例えば、次のような事例を検討してみましょう。
父から子に合計3000万円相当の財産を贈与する際に、①ある年に2600万円を贈与し、②翌年に100万円を贈与し、③翌々年に100万円を贈与するといったように、毎年100万円ずつを贈与した場合、
・1年目は、
2600万円-基礎控除110万円=2490万円
この年は、上記の通り、累積贈与額が特別控除2500万円を下回るため、贈与税は非課税になります。
・2年目
2490万円+100万円-基礎控除110万円=2480万円
この年も、累積贈与額が特別控除2500万円を下回るため、贈与税は非課税になります。
・3年目
2480万円+100万円-基礎控除110万円=2470万円
この年も、累積贈与額が特別控除2500万円を下回るため、贈与税は非課税になります。
・4年目
2470万円+100万円-基礎控除額110万円=2460万円
この年も、累積贈与額が特別控除2500万円を下回るため、贈与税は非課税になります。
・5年目
2460万円+100万円-基礎控除額110万円=2450万円
この年も、累積贈与額が特別控除2500万円を下回るため、贈与税は非課税になります。
以上からおわかりのように、上記の通りの贈与を行っていけば、実質、贈与税を支払うことなく、子に多額の資産を移転することが可能となります。
他方で、上記の例で、仮に5年目の贈与額が300万であったとした場合は、累積贈与額が2650万円(2460万円+300万円-基礎控除額110万円)となりますから、2500万円の特別控除額を超えた差額である150万円に、税率20パ-セントの贈与税(=30万円)がかかってきます。もっとも、この支払い済みの贈与税額は、相続時に算出した相続税額から控除して精算することができます。
相続時清算については、仮に、上記の令和5年の時点の財産関係で相続が発生した場合には、累積贈与額である2450万円がその他の相続財産に加算されて、相続税の評価額が算出されます。
2 どういうメリットがあるの?
①相続税が、基礎控除で非課税の人にはメリットが大きい
上記に記述したように、この制度を利用しても、相続時に、累積贈与額(=暦年の110万円を控除した贈与財産の累計額)が相続財産に加算され相続税が加算されるならば、あまり意味がないのではと思った方がおられるかもしれません。
しかし、相続税には、基礎控除(3000万円+600万円×相続人)が認められていますので、もともと相続税を課されないケ-スがあるのです。
よって、相続税が発生しないケ-スなら、実質非課税で、住宅などの資産価値の大きい財産を、2500万円(+毎年110万円)までの範囲内で、両親などから早めに子や孫に移転することが可能となります。
②暦年課税と比べ相続税が低額になる場合がある
現行の暦年課税制度(=課税年度の合計額に応じて、贈与税額を計算する制度のことで、基礎控除110万円が認められている。)では、相続が発生した場合には、相続開始前7年(最長)以内の贈与額は、金額の大小にかかわらず、相続財産に加算しなければなりません。
しかし、相続時精算課税制度を利用すると、課税年度に、基礎控除分である110万円までの贈与しかなかった場合には、その部分については贈与税の課税はなく確定申告も不要で、これに加え、令和6年の法改正により、110万円を超えた場合も、相続時に、課税年度で110万円までの累積贈与額は、相続財産に加算することは不要となりました。
よって、相続時精算課税制度を利用した方が有利となるケ-スが相対的に増えたといえるでしょう。(ただし、贈与期間が長期にわたる場合、相続財産の総額が著しく大きい場合はこの限りではありません。)
③将来値上がりしそうな財産の節税対策とすることができる
この制度を利用すると、相続税の申告の際に、贈与時の時価額で相続財産に加算されるため、贈与後に価額が上昇した場合にも、値上がり前の低い価額で相続税を計算することができます。
よって、将来値上がりしそうな株や不動産を、評価額が低いうちに贈与しておけば、将来の高い評価額で相続税を計算されるのを避けることができます。
同様に、収益を生む財産(賃貸不動産など)の節税対策にすることができます。
すなわち、アパ-トなどの収益物件を贈与すれば、贈与後の家賃収入はすべて受贈者(子や孫)のものとなり、贈与者の相続財産が増えることを防ぐことができます。
④特定の財産を、特定の相手に、確実に譲り渡すことでできる
この制度を利用すると、上記①でみたように、遺言よりも確実に、特定の財産を特定の者に、生前に譲り渡すことができます。
特に、事業用資産(自社株など)や特定の不動産など、将来の相続争いになりそうな財産について、あらかじめこの制度を利用して贈与しておくことにより、将来の紛争を未然に防ぐ効果が期待できます。
3 それでは、この制度を利用することによるデメリットはあるの?
①相続時精算課税選択届出書の提出が必要で、後に、暦年課税制度へ戻せなくなる
この制度を利用するには、精算課税による贈与を受けた最初の年の翌年の確定申告期限までに、相続時精算課税選択届出書を提出することが必要となります。
そして、この制度を一度選択すると、その後、同じ贈与者からの贈与を受ける場合には相続時精算課税制度が適用され、変更・撤回ができません。
したがって、将来の税制改正や、贈与者の資産状況の変化により暦年課税の方が有利になる事態が生じたとしても、暦年課税に戻すことができなくなります。
②この制度を採ると、相続時に「小規模宅地等の特例」を適用することができなくなる
この小規模宅地等の特例とは、自宅の敷地(特定居住用宅地等)、事業用宅地(特定事業用宅地等)等であれば、それぞれ、最大330平方メ-トル、最大400平方メートルまでの評価額が80%減額されるという制度であり、相続財産が基礎控除を超え相続税が課税される場合には、非常に大きな節税効果を持つ制度です。
よって、この特例が使えなくなることで、自宅や事業用宅地の評価額、その割合が高い場合には、相続税の負担が増え、結果として相続時精算課税制度を採用しなかった方が節税となるケースが生じます。
4 最後に
上記は制度の概略を述べたものです。
この制度を利用すべきか否かは、本制度の詳細な適用要件、その効果はもちろん、関連する各種法制度の詳細を正確に理解したう上で、ご自身やご家族の親族関係、財産状況、生活状況、将来の見通し等を正確に把握することにより、慎重に判断することが必要となってきます。
したがいまして、お客様のおかれている状況によっては、本制度を利用するよりも、公正証書遺言・自筆証書遺言により財産を移転する方法、暦年課税制度を採用し小規模宅地等の特例を採用する方法等の方が、より有利となるケ-スも十分に考えられます。
よって、弁護士や税理士などの専門家に相談した上で、手続きを進めるようにいたしましょう。
以上
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